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風立ちぬ


The Wind Rises

感想:

この日本には永遠の童貞と処女が少なくとも二人いる。童貞の名前は宮崎駿といい、処女の名前はつぼみという。

「生きねば。」という句点付きのキャッチコピーがついた「風立ちぬ」ではあったが、実際観てみると「成さねば。」とした方が良いのではという内容であった。無論もしこれがフードファイターの半生を描いた映画であれば「食べねば。」とすべきであるし、ポルノ男優であれば「勃たせねば。」となる。また劇中で扱われる関東大震災のシーンに五代目古今亭志ん生を登場させたとすれば「酒屋へ向かわねば。」とするのが相応しいと考えるが、何が言いたいのか解らなくなるし、そもそも観客はキャッチコピーにそれほどの想いを抱いて接する訳でもないのだから、ここは一人でも多くの人に関心を持たれ、出来ればある程度の人の琴線に触れる言葉、つまり「生への執着」が感じられる「生きねば。」というコピーとするのが木戸銭の入り具合を心配する輩に対しての説得材料としては充分によいのではないかと個人的には考えた。

話の内容は至って単純で、
「飛行機を作りたくてたまらない男が自分で納得のいく飛行機を作った」
というものである。

ただこれだけでは興味のない人にとってはエンジニアの奮戦記で終わってしまうので、そうならぬよう恋愛話も盛り込んである。しかも主人公が恋した相手は労咳持ちである。全米が号泣する準備はできていた。

「風立ちぬ」主人公は実在した二人の人物をミックスしている。一人は天才エンジニヤであった堀越二郎、もう一人は映画と同じく軽井沢で肺を病んだ女性と出会い結婚した小説家の堀辰雄である。どちらも東京帝国大学、今でいうところの東大出身者でありその頭の良さ(特に堀越は首席で卒業するなど)には殺意が芽生えるが、前述の映画ポスターで「生きねば。」などと宣言され、またそれがあちらこちらの国民の目に届く場所にて掲示されている手前、ここは自分の怒り(a.k.a.妬み)をグッと押し堪えるのが大人というものであるし、実際には彼らはもうあらひとではないのだから本件に関してはこれにて不問とする。とにかく、女神転生で考えれば二神合体の材料としてなかなか面白い合成が出来そうなキャラクターではある。こんごともよろしく。

引き続き感想をしたためる。

バカにはつらい映画である。バカにもいろいろあるのでもう少し詳しく書くと、
「テレビのテロップやナレーション無しには流れているコンテンツの主旨やくすぐりどころが理解できない連中」の事である。逆にいえば、そこで起きている事にテロップで事件名を出したり、登場人物に起きた事や又は登場人物の胸の内などをナレーションやモノローグで処理すればそれぞれのシーンにおいて各自が取った行動や出来事には当たり前だが理由があり、彼らは彼らなりの判断をしてあのエンディングに至ったのだという事がはっきりと浮き出る映画であるという事だ。なのでDVD発売時には是非とも「バカでもわかる音声ガイダンス(コメンタリーでもよい)」を特典(セルのみ)につけると、劇場で1,800円払って観たけど何だかよくわかんなくてもうあの映画はこりごりだ、と思っていたはずのバカたちが、さらに4〜5,000円払って飛びつくことだろう。そしてそのバカたちは説明を聞いたのち、物知り顔で周囲の人間に自分が難解だと思った映画の説明をするのだ。正確には受け売りという。

宮崎監督はつい先日長編アニメ制作引退宣言をしたが、その理由は何となくわかる気がする。パッと思いついたアイデァ(映像イメージ)は、アニメであれば特にそうだと思うのだが、それ単体では長くて1分程度ではないかと思う。降りてきたイメージを具現化したい、そう思うのはアニメーターのみならず創作に関わるものなら誰しもが持つ気持である(逆にそれがなければ何も作りようがない。当たり前だが)。しかし長編映画というものは長編という言葉が指す通りある程度の上映時間がなければ作品(商品)として成立しない。つまりパッと浮かんだアイデァをアニメにして劇場公開するには、無理くりにでもある程度の尺が稼げるストーリーをでっち上げなければならないのだ。その点からも監督が「作らないのではなくて、”長編映画”はもう無理」と言った気持ちを察することが出来る。アニメにしたいのはアニメにしたいからであって、そこに物語をつけてその意味によって観客に評価してもらいたいわけではないのだ。

そういう訳でなんか飽きてきたのでここからは女になったつもりで書くわよ。

菜緒子、アンタ結局絵はどうなったのさ。ポスターのビジュアルに使われてたんで、アンタの描いた絵がクライマックスか何かで重要なアイテムになるかと思ってたのに、結局趣味程度のもんだったんじゃない、何よそれ。旦那さんは生涯をかけて夢中になれたものがあったのに、何よアンタ。世の中には真剣に絵で食っていこうとしている人たちもいるのに、失礼でしょう! 喀血した血で薔薇の一輪でも描いてごらんなさい! それが出来ないんだったらスクリーンの向こうにいる人たちに謝りなさい! 特にボブおじさんには土下座してあやまりなさい! ヴァンダイキ・ブラウンなんて聞いたこともないような色の絵の具ブッかけてやるから頭冷やしなさい!

……あら、アタイとしたことがはしたない。……でもね菜緒子、アタイはひょっとしたら菜緒子に嫉妬してたのかもしんないな。頭の切れる育ちのいい好青年から惚れられるなんてさ、アタイの人生には起こりそうにないもの……。

それからね、旦那さんが持ち帰りで仕事してるのに、アンタ手をつなぐようにお願いしたでしょう。旦那さんはそれを快諾してくれて、片手でも仕事をしていたでしょう。その風景が何かちょっとシャクでさ。アタイだったら、アタイの意中の人が病床のアタイと手を繋いでくれたなら……その腕をグッと引き寄せて、手マンしてもらうもの。

あとタバコね。アンタはどうせろうそくの炎が消えかけてる、「死神」って落語のオチみたいな寿命だからいいんだけどさ、それでも旦那さんは気を使って煙草を我慢してたわよね。仕事に熱中しちゃってたから無意識に「タバコ吸いたい」って漏らしちゃったのよね。じゃないと頭の中がタバコ吸いたいだらけになっちゃって、飛行機の事考えられなくなっちゃうもんね。だからあなたはそれを許したけれど、旦那さんは一度断って、それを再度あなたが許したから旦那さんは、これは本当に吸っていいんだということでサッとタバコを吸った。心許せる関係だからこそ出来る事よね。本当は三顧の礼と言って、もう一回そのくだりやらなきゃいけなかったんだけど、それは許すわ。でも次からは気を付けてって旦那さんに伝えといて。京都でも韓国でも、三度目までは断るの。……昔さ、富井部長って人がいてね、この作法を間違えて大きな商談を台無しにしかけたの。結局新大久保あたりでキムチ買って事なきを得たんだけど、今じゃあアソコも色々あるから、サ……。まぁそれはどうでもいいんだけど。

風立ちぬ、かぁ……なんだか凛としたいいタイトルよね。じゃあね、菜緒子。お体お大事に。

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