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カンパニー・メン


The Company Men

感想:

いよいよ食うに困り、日払い土方の仕事を始めたのは30代半ばの事だった。

主たる理由は「約束されていた給料が出ない」という事が判明したからであったが、それに至るまでの話は長いので割愛する。

手元にあった金は貯金含めてわずか数万で、家賃はじめ水道光熱費などを払うには到底足りなかった。自己破産し事実上一家離散となった状態の実家筋に頼れるはずもなく、またサラ金で当座の金を借りたとしても、すぐに立ち行かなくなることは目に見えていた。

とりあえず求人雑誌をいくつか買ってきて、アルバイトを探した。殆どが当月締めの翌月払いという条件で、「日払い/週払い」でお金がもらえる仕事といえば、私の住んでいた田舎においては水商売(ホステス)か土木作業員くらいしかなく、男性である私が選べるのは後者だけであった。

とりあえず自宅から近い求人案件をいくつか探し、一番近いところから順に面接の約束をして事務所に行った。履歴書に書いた私のスキルは、ここでは使い物にならないものばかりだった。面接はこれまで私が受けてきたものと違い、自分の事を根掘り葉掘り聞かれることも、働くにあたっての心構えなどを聞かれることもなかった。面接というよりは、仕事の説明がほとんどだった。

仕事を希望する場合には前日の夕方17時までに事務所に連絡し、翌日の募集状況を確認して予約する事。現場は9時始業だが、移動などあるので事務所には朝6時半までに来ること。往復にかかる移動時間は賃金が発生しないのを了承する事。終業後には現場の雇い主から確かに作業した旨書類にサインをもらい、事務所に提出する事。当日払いを希望する場合には、清算の手続きが終わるまで事務所で待つこと。また特殊な工具などについては事務所で貸与したり現場で用意したりするが、基本的に作業に必要な服や安全靴などは自分で買う事。

「では明日働きたかったら夕方に電話して」そう言われて面接は終わった。一度帰ってから知り合いに連絡して作業衣類専門店へ車で連れて行ってもらい、作業服、安全靴、軍手、厚手の靴下、3mのスチールメジャーなどを買った。

「いよいよ自分も、どうにもならない底辺に落ちてしまったな」とその時は思った。

初日。現場で着替えるつもりでバッグに作業着を入れ、普段着で事務所に行った。ところがそこにいた人たちは全員既に作業着を着ていて、つまり作業着のままこの事務所に来ていて、普段着の私を呆れた顔で見た。所長から、
「とりあえず今日は帰って」
と言われた。ここは自分の知ってる仕事とはルールの違う世界なんだな、などと思いつつ家に帰り、現場で食べるはずだった、さっき作ったばかりの弁当を食べて寝た。

翌日からは特にトラブルもなく、仕事が割り当てられた。初めて行った現場はあいにくの雪で、午後を待たずに終了となった。土方で稼いだ最初の金は、往復2時間かけたが1500円程度しかなかった。

以降、いろんな現場に行った。そこは地上数十メートルの橋梁だったり、観光地の浜辺だったり、大手鉄工所の工場だったり、誰が利用するのかわからない田舎の道路だったりした。ゴミ掃除やコンクリート注入の補助、ボルトの掃除や足場パーツの運搬など、現場ごとに任される作業は違ったが、何をやらされようが一日働いてもらえる金は変わらず、6000円程度だった。

素人なので現場の仁義に慣れないうちはよく怒られたが、そのうち私の働きを気に入ってくれた責任者もいたりして、「明日も彼を呼んでくれ」と事務所に連絡があった時は嬉しかったし、仕事を手配する事務所の所長もその時だけは優しかった。

元来何か「もの」を作るのが好きな私であったので、毎回キツいながらもその現場の建物や道路が次第に出来上がっていくのを見るのは楽しかった。そこで働く覚悟を決めるまではあれほど嫌だった日払い土方という仕事が、もらえる金は少ないものの結構好きになっていた。しかし、そんな日々は長く続かなかった。

事務所の応援する政治家の後援メンバーとして署名してくれ、という所長のリクエストを、「自分の支持する政治家は自分で決めたいし、少なくともこの人ではない」という理由で断ったら次の日から仕事を干され始めた。日に関わらず曜日に関わらず、「明日振れる仕事は無い」という返事を電話越しに言われる事が多くなった。

幸いなことにその時点では他の日払いバイトもかけもちする程度にはなっていたので八方ふさがりという訳ではなかったが、今後もこんな生活が一生続くのかな、と思うと辛かった。「働く意思はあるのに仕事がなくて結果死ぬ」という未来をよく考えるようになった。

どうせ死ぬならやるだけやってみようと思い、バッグに着替えを詰めて九州から東京に出ることにしたのが今から十数年前の事である。上京してはじめて就いたのは住み込みの道路工事で、それからさまざまな職を経たのち、現在は日払い土方を選択する事になるまでやっていた、自分の性に合う仕事に再び就いている。生活は相変わらず貧乏だが、上京から今日に至るまでの体験は今思えば私にとってとても有意義なものばかりで、何かあった際の判断基準として「物事がどうなるかは、やってみるまでわからない」と現在思えるのは、その時の日払い土方として働く日々があったからこそだし、裕福な他人の人生を羨ましく思うことが少ないのは、自分が貧乏にしては運の良い人生を送れているからだろう。私は幸せ者だ。

 

「カンパニー・メン」は会社の業績悪化を理由にリストラされてしまう人々の物語で、前述のような体験をした私は興味深く観ることが出来た。

ベン・アフレック扮する主人公には妻子がいて、自宅を持ち、車はポルシェ、朝からゴルフで年収1000万超え。そんな彼が突然無職となる。その時の気持ちはわからんでもないが、リストラ再復帰物語としては入り辛くて、「成金が贅沢言ってんじゃねぇ!!」という気持ちをずっと抱えたまま観ていた。

映画の中で登場人物が「クビだー!!」と言われたその日のうちに自分の荷物をまとめて会社から出ていくというシーンを何度か観てきた私にとって、アメリカ社会における「突然のリストラ」というのは誰もが覚悟しておくべき強権なのだ、と当然のように捉えていた。だから本編中でリストラされて狼狽する人たちには「高給取りのくせに貯金とかしてなかったのかよ」と思ったし、どうにもピンとこなかった。

「数字と利益を追い求めるようになった企業に人情深い人材はいらん」と言わんばかりにリストラされた副社長(トミー・リー・ジョーンズ)にしても、「昔はこうじゃなかったのになァ」という嘆きが続くだけで、観ている側としても「まぁでもお前、金は持ってるからな」という想いから同情出来ない。ラストの行動についても「現実を見ろ!! お前らが乗ろうとしているのは業界的に沈みゆく船なんだぞ!!」という気持ちにしかなれなかった。

そういった具合にネガティブな感想が続く本作で美味しい役どころだったのがケビン・コスナー演じる大工の棟梁で、貧しいながらも自分の生きがいが持てる仕事で暮らしている彼が、人情味あふれる行動や休まず仕事するその裏事情をうかがわせたあたりで、やっと主人公の気持ちと本作の空気が変わり始める。しかしその片方で同じくリストラされた古株社員(クリス・クーパー)が「60過ぎたら仕事とか無いしもう死ぬしかない」という展開も起こる。

ちょっと待て、「カンパニー・メン」ってのは「社畜」をテーマにした映画だとばかり思っていて、ストレスに強い人間たちがゾロゾロ出てくる、みたいな話だと思っていたのだが、違うのか。ならばタイトルに異議あり、である。

「クビになったら凹むし辛い」

そんなの誰でもそうだよバカ。だけどそれを高給取りビジネスマンを主人公に据えてやるなら、彼のやっていた仕事が彼にとってどんなにやりがいのある仕事だったのかって事を本編中に描かないと、クライマックスで再就職が決まった際に「高給取りに戻れてよかったね、もう二度とブルーカラーの縄張りに来んなバーカあとその再就職先の会社も潰れろ」っていうやっかみが観客に起こるじゃないか。

そんな感じで現実を突きつけたいのか、夢を見せたいのか、どっちつかずのまとまりのない映画だったが、奥さんが自分の足に乳液か何かを塗り塗りしている場面はエロくてよかった。彼女はその後、旦那さんとにセックスを促すセリフを吐いていたのだが、残念ながら件のシーンは無かった。セックスシーンが無いのであれば、もうちょっと塗り塗りのシーンが長くても良いと思うし、もっと色んなところを塗り塗りすべきだ。乳液を塗り塗りした女性の肌がヌルヌルと光っている様はエロいのだから、監督はそこをもっと掘り下げるべきだったのではないか。

トミー・リー・ジョーンズの不倫シーンも、ただ相手と寝っ転がっているだけだった。このシーンも主人公とその妻のシーン同様、もっと相手の女性が乳液か何かを塗り塗りするシーンがあっても良かったのではないだろうか。

そういえばケビン・コスナーが壁にモルタルを塗り塗りするシーンがあったが、ひょっとしたら「俺はどちらかというとアレの時もオレのソレを塗り塗りしてヌルヌルさせるのが好きなタイプの男だぜ」という事を暗示してたのだろうか。もしそうだとしたら、ちょっと観客を付き離しすぎの演出だと苦言を呈したい。暗喩にも程がある。カンパニー・メンの「カンパニー」は、カンパニー松尾のカンパニーとは意味が違うのだから、しっかりしろ。

ところでヌルヌルといえば昔ラブホテルに行って初めてローションを使った時の話だが、私は風呂場に置いてあったそれを薄めて使うものだと知らず、原液のまま大量にエアマットにブチまけて行為におよび、相手も自分も滑りすぎて前儀すら難儀した事がある。ハメハメするにはトゥーマッチ・ヌルヌルだったので、他の方々もこんな状態で行為しているのだろうか、などと余計な心配をした私だが、ここ最近はなかなかヌルヌルするチャンスにありつけない。

話がそれた。

という訳で「カンパニー・メン」は褒める箇所の少ない作品だったが、それでも私はいくばくかのやる気、元気、井脇をもらったと思う。

どんな苦難があろうとも、人生を諦めてはいけない。死を選んではいけない。ヌルヌルでハメハメが出来るのは、生きていればこそだ。ヌルヌルでハメハメする事を、おそらく天国は許さない。地獄はもっと許さない。「ヌルヌル地獄」はあるかもしれないが、「地獄」と付いたそのヌルヌルが、気持ち良いとは到底思えない。

当方セックスフレンド募集中。ヌルヌルNGの方、応相談。そう声高に叫んで、明日からもしぶとく生きていく。

おわり

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