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脱獄・広島殺人囚


感想:

自由を手にした途端やりたいことが無くなる、なんてことありませんか?

例えばRPG。ラスボスを倒し、平和を取り戻した世界。その後も普通に戦闘したりおまけ要素や遊び続けることは出来るんだけど、どうにもモチベーションが上がらない。もうこの世界で誰かに何かを頼まれたり、厄介事を解決する必要がないのなら、このままこのRPGをプレイし続ける意味はないよな、って思ったりしたことは?

例えば同棲解消。出て行った相手をよそに、これで独りだ、もう誰かの気分やスケジュールに合わせることなく自由に暮らせるぞー、そう考えていたのに独り暮らしに戻ってみれば毎日を怠慢に過ごすようになって、食事は外食やコンビニ弁当ばかり、洗濯物や掃除も同棲してた頃に比べて面倒くさくてほったらかしになりがち、そしてあれほど欲しかった「自分が自由でいられる時間」のほとんどは、ただただ寝て過ごすばかりだったり。

自由とは、ある程度の制約や自身で抱えた問題があってこそ輝くものではないのかな、と思ったことはありませんか?

 

「脱獄・広島殺人囚」における松方弘樹は、刑務所暮らしがとにかく嫌いな殺人犯です。作品中何度も脱獄・逃亡します。

ヤクザ映画というと仁義に固いピリピリしたキャラクターが多数出てきますが、松方演じる植田正之は非常に人間的なキャラクターです。ここでいう「人間的」とは、卑怯で、ビビりで、性欲に素直で、そして自由を求める男だという事です。ぼくは好んでヤクザ映画を観る人間ではありませんが、この映画に関しては「非常に面白かった」という感想を持てました。鑑賞中主人公に肩入れし、国家権力を振り回す刑務所所長や看守にイライラしました。

主人公に肩入れしたくなった理由の一つは、彼が殺していく人間が全員カタギではない人間ばかりだということです。本編中に町中でピストルを乱射するシーンがありますが、警官や野次馬が取り囲む中、彼は空へ向かって数発放ちます。邪魔する奴を無差別に殺しているわけではないのです。良い人だとはいえないが、根っからの悪人でもない。主人公のそういった部分を台詞ではなく細かい演出で伝えている点も良かったです。

脱獄の方法は、監視カメラはじめ数々のセキュリティが施されている現在の刑務所では到底使えないものばかりですが、舞台は昭和22年ということで、第二次世界大戦終戦からまだ2年しか経っておらず、そういう事情を踏まえると作品中でのゆるい脱獄計画が成功するのも(当時現実の刑務所がそのとおりではないにせよ)何となく説得力が出てくる気がします。

しかし脱獄したからといって、主人公自身に生活していくための算段や才覚があるわけではありませんでした。彼は妻を、昔の相棒を、生き別れの妹を頼ります。妻には追手が来る前にとセックスをねだり、相棒には当面の食糧やタバコをもらい、妹には身を隠し寝泊りするための家を提供してもらいます。

そこで偶然見つけたモグリの屠殺仕事。関わっている第三国人三人組を半殺しの目に遭わせ、ボスの座に就いて自ら牛殺しに勤しみます。人間の血に比べたら、牛なんてたいしたことはないとでもいいたげにナタを振るうのです。

けれどそこで得たあぶく銭で何かしたいかというと、せいぜい女を抱く程度。いや、本当は彼にも何かやりたいことがあったのかもしれませんが、それを我々観客に見せる事無く、その女郎部屋での大立ち回りが原因で彼は再逮捕されてしまうのです。

逃げては捕まり、逃げては捕まり、その獄中で喧嘩を売られては相手を殺し。その度に刑期はどんどん伸びていきますが、「どうせ満期で出所しても人生やり直せない年齢になっている」という考えの主人公はそれを意に介しません。観ているこちらも刑期が伸びる事それ自体をギャグとして受け取るようになり、同時に刑期の意味を改めて考えさせられることになるのです。

思ったのは、主人公が一番輝いているのは「こんなところから絶対に逃げ出してやる」と憤慨していたり行動していたりする間ではなかったか、という事です。結果として脱獄という手段を使ったとはいえ、自由を手にした主人公の日常はとても退屈で、観ているこちらからしても興味を惹かれるものではありませんでした。

 

自由を手にしたら、何をするのか。

 

お金がなければ死にますので、ぼくは日々働いています。時折それを辞めたくなることがあります。現在自分のストレスになっている原因を排除し、ここではないどこかへ行きたくなることがあります。

でもそうやってそこから逃げたとして、それを自由と人は呼ぶのか。ぼくは本当に自由になれるのか。自分の置かれた状況から闇雲に逃げ、自由となった途端魅力の半減する主人公に、自由の意味を改めて考えてしまうのでした。

おしまい

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